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札幌高等裁判所 昭和35年(ネ)236号 判決

控訴人 原告 是安喜代美

訴訟代理人 飯島安三郎

被控訴人 被告 北海道知事 町村金五

指定代理人 樺沢正男 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人が昭和二三年三月二日別紙目録記載の土地に対してなした農地買収処分が無効であることを確認する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、

被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張、書証の提出、認否は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

控訴人が北海道旧土人保護法にいわゆる旧土人であること、別紙目録記載の土地は、明治三九年一月一〇日、控訴人の先代亡是安勝美が同法第一条の規定に基き無償付与を受けてその所有権を取得したものであること、右是安勝美は、大正五年一二月二日死亡したため、控訴人においてその家督相続により右所有権を承継取得したものであること並びに被控訴人が昭和二三年三月二日、右土地につき自作農創設特別措置法第三条により買収処分をした事実は当事者間に争いがない。

控訴人は、右買収処分が北海道旧土人保護法の立法趣旨に反するから無効である旨主張するのでこの点を判断するに、北海道旧土人保護法は、明治三二年三月二日法律第二七号により北海道旧土人の生活保護を目的として判定されたいわゆる社会立法であつて、その規定するところは、北海道旧土人にして農業に従事する者又は従事しようと欲する者に対し、一戸当り土地一万五千坪以内を無償下付することを得るものとし(同法第一条)、右無償下付せられた土地所有権を保持せしめるため、原則としてその譲渡を禁止した外、担保物権、地役権等の設定を制限ないし禁止し、且つ例外として右譲渡又は物権の設定行為を許容する場合にも、予め北海道知事の許可を得なければ無効とする旨を規定し(同法第二条)、その他二、三の生活保護に関する規定を置くのに反し、旧自作農創設特別措置法は、昭和二一年年一〇月二一日法律第四三号を以て制定せられ、その立法目的は同法第一条に明示したとおり、「耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受せしめるため自作農を急速且つ広汎に創設し、以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図る」のにあるから、その法目的は、北海道旧土人保護法のそれに比して一層の優位に在ること明かであるのみならず、旧自作農創設特別措置法は、農地等の買収及び売渡の手続要件を厳格に法定したが、尚、その法目的遂行上他の一般法益との矛盾衝突を免れないので、同法においてその効力の優劣を明かにするため、買収対象となるべき農地を法定すると共に(同法第三条)、その買収対象から除外すべき農地をも法定している(同法第五条)のに拘らず、同法よりも制定順位を遥か以前に先行する北海道旧土人保護法に基いて無償下付した農地については、何等の除外例をも規定しなかつた点を考量すれば、北海道旧土人保護法に基く無償下付地であつても、旧自作農創設特別措置法により買収対象となるべきものは、後者の法規を優先適用してこれを買収することができるものと解すべきである。それゆえ、右説示と異る見地に立つ控訴人の主張は、とうていこれを採用することができない。

そうとすれば、他に本件買収処分を無効とする事由について主張立証がない限り、本件買収処分は適法且つ有効であるといわなければならない。それゆえ、右処分の無効を理由とする控訴人の本訴請求は棄却を免れない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人 裁判官 小野慶二)

目録

北海道帯広市西一六条南一丁目一三番地

一、畑 一町四反九畝二三歩

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